【連載講和】所長 内野和顕『ピロリ菌』


『ピロリ菌』

この頃はピロリ菌をご存知の方が多くなりました。ピロリ菌の正式名はヘリコバクター・ピロリです。胃潰瘍、十二指腸潰瘍を発症させ、胃がんの発症にも関連があります。オーストラリアの若き医師バリー・マーシャルが胃にピロリ菌が存在することを発見し、培養したピロリ菌を自ら飲み込んで胃潰瘍が発症することを確認したのです。それまでの研究で胃に細菌が生存するとの仮説は「馬鹿げた話」として否定されていました。胃は強酸性のため細菌が繁殖するわけがないと考えられており、学会では物笑いの対象でした。しかし学会の常識に敢えて逆らったマーシャルの研究のおかげで、ピロリ菌を除菌することで胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発が防げるようになったのです。
私が感銘を受けるのはオーストラリアの西端のパースで、30歳のトレーニング中の消化器内科医が大発見をしたことです。米国、欧州、日本のような医学の盛んな所ではなく、厭わしい雑音とは無縁のパースだったからこそ、自分の信念を貫いた研究ができたのだと思います。同時にマーシャルのアイデアを病理学的に支援した病理学者のロビン・ウオレンの存在も忘れてはなりません。
二人は「ヘリコバクター・ピロリの発見と胃炎、胃潰瘍での役割」により2005年のノーベル医学賞を受賞しています。